Chair Innovation Project NEWQOL
椅曲老 先人からのメッセージ
椅曲老(い・きょく・ろう)
先人からのメッセージ
不調・老化は座位姿勢から
人に密接に関わる道具として、
椅子が挙げられる。
椅子の起源は紀元前4000年のエジプトといわれる。
椅子は古くから人の身体を支えてきた。
また、
ものの形や生活の様子を描き
表現する象形文字は、
紀元前4000年に使われ始めたといわれる。
象形文字に表現される椅子の「椅」は
人が木の幹にもたれかかり座る様子を表す。
「椅」に含まれる
「奇」の語源は
人が身体を曲げることを表している。
これは、象形文字を生み出した
先人からのメッセージ。
「椅子」は用途に応じて様々な種類がある。
例えば、
疲れた身体を休めるための椅子。
より身体が楽な状態となるよう、
座り心地の優れた椅子が数多くある。
ソファでくつろいだり、
リクライニングチェアに座り、
好みの角度にリクライニングさせて、
身体を休めることができる。
座り心地の良い椅子に座り、
身体の負担を和らげたり、
椅子に座り、くつろぐ時間を過ごす事で、
心を癒すこともできる。
また、椅子は
デスクワークでも使われる。
肉体的にも精神的にもストレスを受けながら
何時間も同じ姿勢が維持されるデスクワーク。
その過酷な状況に対応する椅子には、
ランバーサポート、
リクライニングなど
様々な機能が考案されており
特に「座り心地の良さ」が注目されている。
しかしながら、
座位姿勢では「椅」の文字通り、
身体が曲る。
そして、その状態が維持される。
曲がり続けた身体は、
関節が一方向に曲がり続けることになる。
関節の動きは
筋肉の弛緩と収縮により行われる。
その関節を一方向に曲げ続けると
関節に関わる筋群は収縮し続け、
やがて弛緩できなくなる。
その結果、
関節は良好な可動性が保てず
疲れやすくなり、痛みなどの不調に至る。
これが長時間の座位姿勢となるデスクワークでも
同じことが起きている。
デスクワークでは、パソコンを操作するために、
手は前に置かれ、両肩は前方で保持。
目線を下に向けることで、
頭が下がり、
背中が丸くなり、
身体を起こすと、
背中の筋肉が硬くなっていることに気付く・・・
さらには、
良い姿勢を取っているつもりでも、
鏡を見ると、
猫背の姿勢が映し出されていることも・・・
このような座位姿勢では、
首、肩、腰背部に不調が起こりやすくなる。
これらを予防するために、
椅子では背筋を伸ばすことを
目的とした対策が主流だが、
座位姿勢で起こる不調は、
肩や背中だけの問題ではないため、
ハードなデスクワークの合間に、
背もたれをリクライニングさせて
くつろいでも
人間工学に基づき、ランバーサポートで腰を支えても
不調の増大を止めることはできない。
その理由は、
長時間の座位姿勢で起こる不調を予防するには
座位姿勢で同じ方向に曲がり続ける関節に対して
補正に働きかける動作が必要であり、
座り心地のみを重視する従来の椅子の構造では
それを実施することができないためである。
補正動作を実施すべき部位は、
腰背部
肩甲帯も重要だが、
同等に重要であるにもかかわらず
対策されてこなかった部位がある。
それは
股関節である。
股関節の屈筋群は座位姿勢により
常に収縮状態となる。
首、肩、背中、腰以上に
可動性を保持できない事実と、
その重要性が周知されなかった。
これまで
股関節は屈曲して座り続けることが
常識だった。
デスクワークに限らず、
年齢を重ねていくことにより、
活動量が減り、
座位姿勢で過ごす時間が増していくにつれ、
従来の椅子による股関節屈曲の影響は
増大し続ける。
股関節が屈曲と伸展を交互に繰り返すことで
二足歩行するように構成された
人間が
座るときだけ股関節の屈曲状態を
維持し続けることにより、
股関節の可動性に問題が起こることは
想像できないだろうか。
座位姿勢の状態で、
股関節の屈筋群の収縮が強まると、
座位姿勢から立つ際に、
股関節の屈筋群が弛緩しきれず、
引っ張られた状態となる。
この状態では、立位や歩行の際は、
常に重い荷物を抱えるような負担がかかり
膝が曲がり、
太ももから腰に力が入り、
歩幅が
狭くなり、
姿勢が
悪くなり、
筋肉の力み、硬さは、
腰背部へ広がる。
更に、寝るときでさえも、
この影響を受けることになる。
仰向けになると、
長時間の座位姿勢で弛緩できなくなった
屈筋群が引き伸ばされることで
身体全体は圧迫を受け、
力みが抜けず、血流が悪くなり
疲労感や痛みが起こるようになるため
背中を丸めて
横向きでしか寝られない状況となる。
どのような姿勢であれ、
本来、人間の身体は
長時間同じ姿勢を維持することにより、
疲労感や痛みなどの「不快」を感じ、
「不快」を回避するために、
無意識に「楽」な姿勢をとることになる。
歪んだ身体は、
その歪みに合わせて座る姿勢が心地よい。
デスクワークに限らず、
余暇を過ごす座位姿勢を含め、
適切な座位姿勢が維持されなければ、
歪みの悪循環が繰り返され、
本来あるべき姿勢に戻りにくくなる。
仮に
何時間でも座り続けられる椅子が
あったとしても、
その課題が解決されることはない。
このように、
座り心地のみを求める「従来の椅子」は、
長時間の座位姿勢により
悪い姿勢が習慣となった身体に対して、
長時間の座位姿勢により
悪い姿勢が習慣となった身体に対して、
「補正」に働きかけることはできず、
結果として、立つ、歩く、寝るなどの
日常の基本的な動作に影響が及ぶ。
つまり、
「椅子」は、
身体が「曲」がる。
さらに、
象形文字を生み出した先人は、
「老」の文字に
腰を曲げて杖をつく老人の様子を表現した。
「椅」と同様に
身体が「曲」がるという意味を
備えている。
先人自身も、
数多くの象形文字を残す際、
「椅」子による長時間の座位姿勢で
身体が「曲」がり、
不調を起こし、
「老」を早めた。
「椅(椅子)」は
身体が「曲がり(屈曲、収縮)」
「老(不調)」をきたす。
先人は
このメッセージを未来に伝えるために、
椅子誕生から数千年
この仮説から
どのような椅子を創造できるだろう。
いつまでも
その足で歩き続けられる
未来のために。